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特別企画

  • 「押切トオル」役 下野 紘さんインタビュー

     

    「クセになる」伊藤潤二作品

     

    ――「押切トオル」役で伊藤潤二作品にご出演されたわけですが、伊藤作品の魅力とは? お好きな作品やエピソードがあれば教えてください。

     

    実は、『押切』シリーズは読んだことがなかったんです。『うずまき』、『富江』シリーズ、『長い夢』とかは読んでいたんですけど。伊藤潤二先生の作品って、「この物語はこういう世界から始まる」という前提でマンガが始まるじゃないですか。もちろん現実世界に軸足を置いたお話もあるんですけど、特殊で独特な世界設定を基軸にした作品が多くて、そこからさらに怪奇な出来事が展開していく。ここがまず伊藤先生の作品の大きな魅力だと思うんです。次に、「あれはいったい何だったんだ」「この先の展開が見たい!」というようなインパクトと余韻。これがものすごく強いので、その先のお話や、次の作品をいっそう読みたくなります。クセになると言いますか、そういう訴求力が他作品にはない伊藤先生の作品の魅力だと思っています。

     

    ――押切トオルを演じられてみて、いかがでしたか?

     

    押切はモノローグの多いキャラクターといいますか、頭の中でずっと思考し続けている子です。モノローグでは非常に饒舌。だから最初は“ちょっと影を背負った、普通の男子高校生”として演じました。ですが「もっとより内向的な雰囲気を出してください」というご指示をいただいたので、モノローグと会話で少しテンションを変えて演じました。ちょっと悩んだのは、押切が叫ぶシーンです。ホラー作品なので当然叫ぶシーンも出て来るのですが、その叫びに内向的な要素を入れていいものか、少し悩みました。

     

    ――押切というキャラクターの魅力、またはすごいなと思うところをお教えください。

     

    高校生なのに、あの不気味な館でひとり暮らしができるのは本当にすごいと思います。どんな不気味な館なのかは放送でお確かめいただきたいのですが、館の不気味さを知ると彼のすごさを改めて実感すると思います(笑)。また押切は、内向的な一方で過激なところもあるので、なんだかんだでいろんな表情を見せてくれるところも魅力だと思います。

     

     

     

    ――ここからは「もしも」を前提とした質問です。もし破格のギャラで、押切の住む館に丸一日たったひとりで過ごす仕事がきたら、どうしますか?

     

    頑張ります! もちろん怖いことは怖いんですが、おそらく館への好奇心が恐怖を上回るんじゃないかと思います。

     

    ――では伊藤潤二作品に「下野 紘」が登場するとしたら、どんな役割を担う、どんなキャラクターだと思いますか?

     

    (笑)。そうですね……。すっごくカラアゲが好きな男で、カラアゲ絡みの仕事をどんどんしていたらいつの間にかカラアゲ以外の食べ物が周囲から消えて、食べるものがカラアゲしかなくなってしまうとか。最終的には、仕事がなくなって崖っぷちで、最後に「こういう仕事がある」「ヤラセだから」と言われて、自分がカラアゲになるとか(笑)。あるいは、男なのに胸が大きいキャラクターで、どんどん胸が大きくなっていって最終的にその胸に潰されて死ぬか、破裂しちゃう。それか自分が消えてなくなって、胸だけになってどこかへ飛んで行くとか……。どちらにしろバッドエンドしか思いつかないです(笑)。

     

    ――アフレコ中の印象的な出来事がありましたらお教えください。

     

    この作品にはキャストの皆さんが様々なエピソードに兼ね役で出演しているのですが、僕のお当番回で共演した名塚佳織さんの叫び声がじつに見事でした。世界最高峰の断末魔だと思います。音響監督の郷田ほづみさんたちも「すごくキレイな叫び、ありがとうございます」と感心したほどなので、早く皆さんにもお聞かせしたいです。

     

     

    ホラー作品は小さい頃から身近なものでした

     

    ――下野さんはホラーやミステリー作品はお好きですか?

     

    はい、昔から好きです。僕が子どもの頃、テレビでよくホラー系の外国映画を放送していたんですよ。『13日の金曜日』、『エルム街の悪夢』、『霊幻道士』シリーズとかいろいろ。そういう作品をたくさん観て育ったので、今もホラー映画はよく観ています。邦画では伊丹十三さんが製作総指揮をとられた『スウィートホーム』が好きでした。この映画で和製ホラーの魅力に目覚めた気がします。

    高校生から20歳ぐらいの時期は、本当にホラー映画ばかり観ていましたね。お小遣いでビデオをレンタルしてまで。でもホラー映画って結構アタリハズレがあるじゃないですか。期待して観て「これはすごい、怖い……!」と思うものもあれば、「……これは、ないな」というのもあって。タイトルと写真に騙されたことは何度もあります(笑)。

    あと僕はゲームが好きなので、ホラーゲームも結構遊んでいました。今までで一番怖いと思ったのは、スーパーファミコンの『学校であった怖い話』というゲームです。当時としては画期的な、写真とCGでリアリティと怖さを出した作品で、ゲーム中に流れる音楽もとにかく怖くて不快。でもこの『学校であった怖い話』って、どこか伊藤潤二先生の作品にも通じる雰囲気があったんですよ。極上の恐怖がありつつ、コミカルな部分もあって。なので伊藤先生の作品を初めて読んだときも、すごく親しみを感じました。

     

    ――ホラーコミックもよく読まれてきたのでしょうか?

     

    読んでいました。僕の姉が少女マンガ以外にホラー系のマンガ雑誌も愛読していたので、その影響で。伊藤潤二先生、楳図かずお先生、御茶漬海苔先生など、ホラーの巨匠と言われる先生方のマンガは結構読みましたね。

     

    ――かなりディープにホラー作品に触れてこられたのですね。

     

    意識したことはなかったですが、そうみたいです。

     

    ――では恐怖にはかなり強いほうですか?

     

    いえいえ! めっちゃ怖がりです。夜寝る時、部屋を真っ暗にしたあと、怖いことを考えてしまって眠れなくなるタイプです。ホラーは好きだけど、怖いのは苦手。怖いもの見たさというか、好奇心が怖さに勝るというか。なのでホラー映画を観る時は「あ、このあたりで怖いのが来そう」と思うと、両手で顔をガードしつつ、その隙間から薄目で見ています(笑)。

     

    ――では、オバケ屋敷なども苦手ですか?

     

    できれば入りたくないです。でも以前、友達とオバケ屋敷に入ったことがありまして。怖すぎて、中にいる間ずっと腕を前に構えて防御の姿勢をとっていました(笑)。そのときに、男のオバケ役の人が「ウワーッ!!」と叫びながらこちらに走ってきたんです。脅かせるために。オバケは僕らの横を走り去るつもりだったようなのですが、僕が横に避けるのではなく、なぜか肘を前に構えたまま前に出てしまったので、僕の肘がオバケの胸に入ってしまって……。そのオバケは「ヴッ」とうめきながら崩れるように去っていきました。悪気はなかったとはいえ、本当にかわいそうなことをしてしまったと、思い出すたびに反省しています。

     

     

    ――怖さの種類には“ジワジワ系”と“ビックリ系”がありますが、下野さんがより怖さを感じるのはどちらですか?

     

    僕はジワジワ系ですね。有名な怪談系都市伝説に「メリーさんの電話」ってあるじゃないですか。電話を繰り返しかけてきつつ、自分に徐々に近づいて来るお話。ああいうのは怖いと感じます。

     

    ――では都市伝説をはじめ、霊や異世界など、超自然現象は信じるほうですか?

     

    信じるというか、そういうのがあったらいいなと思います。死後にまた別の人生を送るだとか、輪廻転生を信じたいほうなので。その延長で、霊とかもいるんじゃないでしょうか。

     

    ――そうした超自然現象の部類で、下野さんが一番怖いと思うのは何ですか?

     

    対処のしようがないという意味で、悪霊とか生霊が一番怖いですね。例えばゾンビとか異形の怪物であれば、逃げたり戦ったりして助かるための手立てを講じられる気がするんですけど、霊のように実体が無くて怨念だけで人に害を成す存在は防ぎようがないので怖いです。マンガとかで「生きている人間が一番怖い」とオチのつく作品がありますけど、恨みで人に害を成すという意味では、本当にその通りだと思います。

    ホラーから脱線してしまうのですが、自分では対処のしようがないものとして、僕は高所恐怖症なので、スカイダイビングも怖いです(笑)。気がついたら飛行機から飛び降りる寸前のスカイダイバーに括りつけられている状況とか、想像するだけでもメチャクチャ怖いですね。頂点まで行って動かなくなってしまった観覧車とかも。降りられる見込みが立たない、自分ではどうにもできないという状況が本当にイヤです。

    TV番組の『世にも奇妙な物語』の短編ドラマで、そういう「どうにもできない恐怖」を題材にした「ロッカー」というお話があるんですよ。産業スパイがとある研究室に盗みに入るんですが、そこの研究員に見つかってしまい、もみ合いの末にスパイは研究員を殺してしまうんです。騒ぎになり、犯人はとっさにそばにあったロッカーに入ってやりすごすのですが、隠れたのが殺した相手が使っていたロッカーで。犯人はひと気がなくなったあとに出ようとするのですが、扉が開かない。そのロッカーは壊れていて、廃棄処分されるものだったんです。ロッカーは犯人を入れたまま廃棄処分場に運ばれてしまい、どんなに助けの声をあげても処分場の轟音にかき消されて……結局プレス機に押しつぶされて死んでしまうんです。視界もままならず、けれど音だけは聞こえるロッカーに閉じ込められて、ただ死ぬのを待つ。僕は閉所恐怖症ではないんですが、自分でどうにもできない状況に追い込まれるのは、どんなシチュエーションにおいても一番恐怖を感じます。

     

    ――超自然現象の一環で「平行世界」があるとしたら、その世界にいる下野さんご自身はどんな人物だと思いますか?

     

    一番の理想は、向こうの世界の僕もゲーマーのパターン(笑)。仲良くなって一緒にゲームを遊べるような平和な世界線だと最高ですよね。

    並行世界とはあまり関係ないかもしれませんが、声優の仕事がまだあまりない時期に、自分がホームレスになる夢を見たことがあります。夢の中の僕は60歳ぐらいで、家も仕事も家族もなくて。髪は白髪で、白いひげを生やしていました。その夢で見た老人は、並行世界の自分なのではないか……と、頭をよぎったことがあります。平行世界の自分を、夢を介して垣間見てしまったんじゃないかと。夢から覚めたあとは反動で、「なんだかわからないけど、とにかく頑張らなきゃ!」と、ものすごくポジティブなブーストがかかりました(笑)。

     

    ――ありがとうございました。それでは最後に、『伊藤潤二「コレクション」』の放送を楽しみにしている、伊藤作品ファン&ホラーファンへ、見どころとメッセージをお願いします。

     

    伊藤潤二先生のファンの方は、どんなアニメーションになっているのか気がかりだと思うのですが、ちゃんと原作さながらに“伊藤潤二節”を味わえるアニメーションとなっています。伊藤先生ファン、ホラーファンの期待を裏切らない出来栄えですので、どうぞ安心してご覧ください。また本作はホラーが苦手な方にも一度は観てもらいたいです。伊藤先生の作品はただ怖いだけじゃなくて、ちょっと不思議だったり、ツッコミを入れたくなるようなコミカルな面もあって、恐怖以外の角度からも楽しめます。一度ご覧いただければきっと継続して観たくなるはずです。オムニバスストーリーなので途中からでも楽しめますし、たくさんの方にご覧いただきたいです。

     

     

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